2022年02月25日

今週の注目疾患  
2022年 第 7 週(2022/2/14~2022/2/20)
【今週の注目疾患】

≪カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症≫
 2022 年第 7 週までに県内の医療機関からカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(以下、CRE感染症)が 3 例報告された。
性別では男性 2 例(67%)、女性 1 例(33%)であり、3 例ともに 65歳以上の患者であった。
菌種別では E. cloacae が 2 例(67%)、E. coli が 1 例(33%)であった。
このうちの E. coli より NDM 型のカルバペネマーゼ遺伝子が検出されている。

 厚生労働省は、CRE 感染症患者の発生届出が医療機関からあった際に、当該患者の検体の提出を求め、地方衛生研究所等でカルバペネマーゼ遺伝子(耐性遺伝子)等の試験検査を実施することとしている(CRE 病原体サーベイランス)1)。
 CRE 病原体サーベイランスは 2017 年より開始され、2022 年第 7 週までに 210 検体が登録されている。
CRE 病原体サーベイランスに登録された 210 例のうち、カルバペネマーゼ遺伝子が検出されたのは 55 例(26%)であり、IMP 型 44 例(21%)、NDM 型 11 例(5%)であった(表)。
 最も多く登録された菌種は K. aerogenes 66 例(66/210,31%)であったが、66 例全てでカルバペネマーゼ遺伝子は検出されなかった。
最も多くカルバペネマーゼ遺伝子が検出された菌種は、IMP 型では E. cloacae 28 例(28/44,64%)、NDM 型では E. coli 7 例(7/11,64%)であった。

 CRE 感染症は、グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗菌薬であるメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症の総称である。
CRE は主に感染防御機能の低下した患者や外科手術後の患者、抗菌薬を長期にわたって使用している患者などに感染症を起こす。尿路感染症、肺炎などの呼吸器感染症、手術部位や皮膚・軟部組織の感染症、カテーテルなど医療器具関連血流感染症、敗血症、髄膜炎、その他多様な感染症を起こし、しばしば院内感染の原因となる。
無症状で腸管等に保菌されることも多い2)。

 CRE のなかでもカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼを産生する腸内細菌科細菌(CPE)はβ-ラクタム剤以外の抗菌薬に耐性を示す場合も多く、CPE による菌血症は、カルバペネマーゼ非産生 CRE によるものと比較して治療予後が悪いと報告されている。
また、CPE は多くの場合、カルバペネマーゼ遺伝子をプラスミド等の可動性遺伝因子上に保有するため、薬剤耐性を菌種をこえて伝播させることが知られている。
このため、CRE のうち CPE は院内感染対策上も治療上も区別が必要と考えられており、カルバペネマーゼ遺伝子検査の実施が必要とされている2)。
 カルバペネマーゼにはいくつかの種類があり、国内で多くみられる IMP 型、海外で広がっている NDM 型、KPC 型、OXA-48 型が知られている。
海外型は多くの場合、カルバペネム系抗菌薬のみならず他の抗菌薬にも耐性を示す多剤耐性型が多く、感染対策上特に注意を要する2)。

 各機関における感染拡大防止には、全ての患者に対して感染予防策のために行う標準予防策(手洗い、手袋・マスクの着用等が含まれる)と必要に応じた感染経路別予防策(接触予防策)を実施する。
手指衛生については、手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備するとともに、手洗いは患者や患者周辺の物品に触れる前後で行う。
接触予防策には個室管理が望ましく、標準予防策に加え、室内に入る際には手袋及びビニールエプロン(ガウン)を着用する3)、4)。
 また、疫学的にアウトブレイクと判断した場合には、院内感染対策委員会又は感染制御チームによる会議を開催し、疫学的調査を開始するとともに、厳重な感染対策の実施(患者のすみやかな隔離、周辺の接触者や環境へのスクリーニング検査の実施等5))が重要となる。
なお、厚生労働省は、CRE 感染症は 1 例目の発見をもってアウトブレイクに準じた厳重な感染対策を実施するよう求めている3)。

■参考
1)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について
(厚生労働省通知平成 29 年 3 月 28 日健感発 0328 第 4 号)
2)国立感染症研究所疫学センター:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症
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3)医療機関における院内感染対策について
(厚生労働省通知平成 26 年 12 月 19 日医政地発 1219 第 1 号)
4)AMR 臨床リファレンスセンター:標準予防策と感染経路別予防策
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5)感染症教育コンソーシアム:中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年2月24日更新)