2022年05月27日

2022年 第 20 週(2022/5/16~2022/5/22)

【今週の注目疾患】
■後天性免疫不全症候群
 厚生労働省は、2006 年以降、毎年 6 月 1 日から 6 月 7 日までを「HIV 検査普及週間」と定めている1)。
当県においても、6 月 5 日(日)に浦安市民プラザ Wave101(浦安市)において無料・匿名の休日街頭 HIV 検査を実施予定であり、受検を希望される方は積極的に活用されたい2)。
また、ちば県民保健予防財団への委託による検査も毎月実施しているため、併せて検討いただきたい3)。
(なお、変更となる場合があるため、最新の検査実施状況については、県ホームページ等でご確認ください)

 2022 年第 20 週までの後天性免疫不全症候群累計報告数は 10 例であった。
全て男性であり、年代別では、20 代と 40 代が 3 例(30%)と最も多く、30 代が 2 例(20%)と続いた。
10 例のうち、AIDS 患者が 7 例(70%)、無症候性キャリアが 3 例(30%)であった。

 2013 年から 2022 年第 20 週までに報告された後天性免疫不全症候群は 453 例であり、男性が407 例(90%)、女性が 46 例(10%)であり、9 割を男性が占めていた。
年代別では、男性では40 代 112 例(28%)と最も多く、次いで 30 代 104 例(26%)であった。
女性についても、40 代が 16 例(35%)と最も多く、次いで 30 代が 10 例(22%)であった。
病型別では男性では無症候性キャリアが 228 例(56%)で、AIDS は 147 例(36%)であった。
一方、女性は AIDS が 23例(50%)と最も多く、次いで無症候性キャリアが 20 例(43%)であった。
 累計報告数は、近年減少傾向がみられている。
一方、後天性免疫不全症候群の報告数全体に占める AIDS 患者報告数の割合は、2015 年から 2019 年までは減少傾向にあり、2019 年は 27%であったが、2020 年は 39%と増加した。
2021 年は AIDS 患者と無症候性キャリアの割合が逆転し、その傾向が 2022 年も継続している。

 報告に記載のあった推定される感染原因※は、男性では同性間の性的接触が 235 例(58%)と最も多かった。
次に異性間の性的接触が 102 例(25%)であり、不明が 79 例(19%)であった。
また、少数ではあったが、静注薬物や刺青などが原因として推定されるケースもあった。
一方、女性では、異性間の性的接触が 21 例(46%)と最も多く見られ、20 例(43%)が不明であった。
(※複数の推定感染原因が記載されている場合には、重複して計上している)

 HIV の主な感染経路は、?性的接触、?母子感染(経胎盤、経産道、経母乳感染)、?血液によるもの(輸血、麻薬・薬物の静脈注射など)がある。
血液や体液を介する接触がない限り、日常生活では HIV に感染する可能性は低い4)。
性行為による感染は最も多く、HIV は感染者の血液・精液・膣分泌液から、性器や肛門、口などの粘膜や傷口を通って感染する。
感染を予防するワクチンはなく、性行為におけるコンドームの正しい使用や血液が付着する可能性のある器具を共有しないことなどが重要となる5)。

 HIV 感染の自然経過は感染初期、無症候期、AIDS 発症期の 3 期に分けられる。
HIV 感染成立後の 2~3 週間後に HIV 血症はピークに達する。
この時期には発熱、咽頭痛、頭痛などの症状が出現する(感染初期)。
この時期に診断ができるとその後の治療や経過に圧倒的に有利になることから、アクティブな性行為感染症(梅毒、淋病など)とこれらの急性感染症状が同時にある時には、HIV 感染を疑うことが重要である。
無症候期を経て、数年~10 年後、HIV 感染が進行すると通常の免疫状態ではほぼ起こらない日和見感染症や悪性腫瘍を発症する(AIDS 発症期)。
治療には早期診断、早期治療開始が最も重要である4)。

 早期診断に重要な役割を果たすのが保健所等における HIV 検査であるが、2020 年からの新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、やむを得ず業務縮小や中止を迫られている地域や検査機関もある。
近年 AIDS 患者の発生割合の増加傾向がみられており、検査機会の減少等の影響で、無症状感染者が診断に結びついていない可能性に十分留意する必要がある。
2020 年からの HIV 検査機会減少は現時点での未診断者の増加のみならず、今後新たに感染する人の増加、数年後の新規報告数の増加などに繋がることが懸念される6)。

■参考
1)厚生労働省:HIV検査普及週間に向けたイベントを実施します
>>詳細はこちら
2)千葉県:休日街頭 HIV 検査について
>>詳細はこちら
3)千葉県:エイズ・性感染症関連情報
>>詳細はこちら
4)国立感染症研究所:AIDS(後天性免疫不全症候群)とは
>>詳細はこちら
5)公益財団法人エイズ予防財団:エイズ予防情報ネット(エイズ Q&A)
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6)国立感染症研究所:IASR Vol. 42, No.10 (No. 500) October 2021
>>詳細はこちら

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年5月25日更新)